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はじめに:頭頸部がんとは
頭頸部がんは、口腔(こうくう:口の中)、咽頭(いんとう:喉の一部)、喉頭(こうとう:声帯を含む部分)などに発生するがんの総称です。主なリスク因子には喫煙や過剰なアルコール摂取が挙げられますが、近年では ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染も一部の頭頸部がんに関連していることがわかっています。特に低・中所得国では発症率が増加しており、世界全体で7番目に多いがんとされています。
治療法としては、外科手術、放射線療法、化学療法が一般的ですが、予防策の重要性がますます強調されています。その中で、日常的に摂取される「コーヒー」や「お茶」による予防効果が注目されています。
コーヒーやお茶が注目される理由
コーヒーやお茶には、抗酸化物質や抗炎症作用を持つ成分が多く含まれています。これらの成分は、細胞の損傷を防ぎ、酸化ストレスを軽減することでがんの発生リスクを下げる可能性があると考えられています。
コーヒーの注目成分
お茶(特に緑茶)の注目成分
これらの成分が、頭頸部がん予防にどのように関与するか、最新の研究結果をもとに詳しく見ていきます。
臨床データ:コーヒーとお茶の摂取が頭頸部がんリスクに与える影響
国際的な大規模分析から得られた結果
国際頭頸部がん疫学コンソーシアム(International Head and Neck Cancer Epidemiology Consortium)は、14件の研究データを統合・解析しました(PMID: 21328399)。対象となったのは、頭頸部がん患者9,548人と対照群15,783人です。この研究では、コーヒーやお茶の摂取量と頭頸部がんリスクの関係が詳細に調査されました。
カフェイン入りコーヒーの効果
- 1日4杯以上のコーヒーを飲む人は、頭頸部がんのリスクが17%低下。
- 部位別のリスク低下:
- 口腔がん: 30%低下。
- 喉頭がん: 22%低下。
- 下咽頭がん: 41%低下(1日3~4杯の場合)。
デカフェ(カフェインレス)コーヒーの効果
- デカフェコーヒーの摂取も一定の予防効果があるとされ、特に口腔がんのリスクを25%低下させることが示されました。
お茶の効果
- 1日1杯以下のお茶を飲む習慣がある人は、頭頸部がんのリスクが9%低下。
- 下咽頭がんに関しては、1日1杯以下のお茶の摂取で27%低下。
- 一方、1日1杯以上のお茶を飲むと喉頭がんのリスクが38%増加する可能性が報告されています。
コーヒーやお茶の作用メカニズム
- 抗酸化作用:コーヒーに含まれるクロロゲン酸や、お茶に含まれるカテキンが、細胞を酸化ストレスから保護。酸化ストレスはがん発生の重要な因子とされているため、その抑制が予防につながると考えられます。
- 炎症抑制作用:炎症はがんの進行に関与することが多く、コーヒーやお茶の抗炎症作用ががん予防に寄与する可能性があります。
- 細胞死(アポトーシス)の促進:カフェインやカテキンなど一部の成分は、がん細胞のアポトーシスを誘導し、その増殖を抑えることが実験的に示されています。
注意点と研究上の課題
- 因果関係の検証不足: 現時点では観察研究が中心であり、コーヒーやお茶が直接的に頭頸部がんリスクを低下させるかどうかは断言できません。
- 摂取量に注意: お茶の過剰摂取は喉頭がんリスクを増加させる可能性があり、飲みすぎには注意が必要です。
- 個人差の考慮: 体質や生活習慣によって効果が異なる可能性があります。
まとめ
コーヒーやお茶の摂取は、頭頸部がんのリスクを低減する可能性があることが、複数の研究で示されています。特に、カフェイン入りコーヒーが口腔がんや喉頭がん、下咽頭がんのリスク低減に有効である可能性が高いとされ、お茶も適度な摂取で予防効果が期待されます。ただし、過剰摂取にはリスクが伴うため、1日3~4杯程度を目安に摂取することが推奨されます。また、出来るだけ、無農薬、有機栽培などを選択するようにしましょう。
参考文献:
- Yuan-Chin Amy Lee, et al. “Coffee and tea consumption and risk of head and neck cancer.” CANCER (PMID: 21328399).
- 国際頭頸部がん疫学コンソーシアム(International Head and Neck Cancer Epidemiology Consortium)の研究データ。
- 厚生労働省「がん情報サービス」。