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海洋汚染とは
世界中の海には、さまざまな汚染物質が流入しており、魚や貝、海藻など私たちが日常的に食べる海産物にも影響を及ぼしています。重金属 や化学物質、マイクロプラスチック などは、食物連鎖を通じて生物濃縮され、最終的には人間の体内へ。これらは長期的な健康リスクや環境への影響が懸念されるため、ただちにパニックになる必要はありませんが、「どのような汚染物質があって、どう対策すればいいのか」を知っておくことは大切です。
本記事では、海洋汚染の主な原因・リスクを整理し、日本でよく食される海産物にどのような汚染リスクがあるかをまとめました。海産物は食生活を豊かにする一方、健康面でのリスクも理解しながら、上手に海の恵みを活かすヒントにしていただければ幸いです。
1. 主な海洋汚染物質と健康リスク
海洋汚染は多種多様な物質によって引き起こされます。下の表は、主だった汚染源とそこから発生する汚染物質、そして健康リスクの大まかなイメージをまとめたものです。
汚染源・例 | 主な汚染物質 | 健康リスク・特徴 |
---|---|---|
工業廃水・都市排水 | 重金属(鉛、水銀、カドミウム)、有機溶剤、石油製品 | 生物濃縮により大型魚や底生魚へ高濃度蓄積。 長期摂取で肝疾患、腎不全、神経毒性、発がん性が懸念される。 |
農業排水・生活排水 | 農薬、肥料(リン・窒素)、有害藻類毒素(赤潮など) | 赤潮・アオコの発生で魚介類に毒素が蓄積し、大量死につながるリスク。 神経障害や食中毒を起こす可能性。 |
家庭用品・化学製品 | 界面活性剤、撥水剤(フッ素系)、抗生物質、ホルモン剤 | ホルモンかく乱や耐性菌の発生などを引き起こす恐れ。 撥水剤由来のPFASが海に流出し、魚介類体内に蓄積し得る。 |
プラスチック汚染 | マイクロプラスチック、PCB、ダイオキシン等) | 魚介類の消化管や組織に入り込み、内臓障害や成長阻害を招く場合がある。 付着物質を介して発がん性や内分泌異常を引き起こす恐れ。 |
PFAS | テフロン加工製品、撥水スプレー、泡消火剤など | “フォーエバーケミカル”と呼ばれ、自然分解されにくい。 内分泌かく乱や肝機能障害、免疫毒性、がんリスクが指摘される。 |
2. 海産物と汚染リスク
日本の食文化では、多種多様な魚介類や海藻が日々の食卓に上がります。以下の表では、それらを大まかに分類し、汚染リスクが高まる要因や注意点を整理しました。「リスク度」はあくまでも相対的な目安なので、絶対的な指標として捉えないでください。
具体的食品例 | リスク | 主な汚染物質 | リスク回避 |
---|---|---|---|
マグロ(クロマグロ・キハダマグロ等)、カジキ、サメ、キングマッケレルなど | 高 | 水銀(特にメチル水銀)、PCB、ダイオキシン、PFAS | 頻度を控える(週1回以下が推奨される場合あり)。皮や脂肪部分を取り除き、焼きや煮付けで脂を落とす。 |
ブリ、サバ、カツオ、シイラ、ハタ類など | 中〜高 | 水銀、PCB、ダイオキシン、残留性農薬 | 大型魚より頻度は緩めでもOKだが、脂身を調理で除去する工夫を。多様な種類をバランスよく摂取。 |
アジ、イワシ、サンマ、ニシンなど | 低〜中 | 微量の水銀、マイクロプラスチック | 汚染リスクは低めだが、海域によってマイクロプラスチック濃度に注意。焼きや煮る調理で余分な脂を落とす。 |
ヒラメ、カレイ、タラ、アンコウなど | 中 | 重金属(鉛、カドミウム)、多環芳香族炭化水素(PAHs) | 皮を取り除く、煮こぼす調理で汚染物質を軽減。産地を確認し、汚染リスクが低い地域のものを選ぶ。 |
サーモン、ブリ(ハマチ)、マダイなど | 変動(低〜中) | 飼料由来の抗生物質、化学物質、PFAS | 信頼できるブランドや生産者を選ぶ。調理時に脂を除去し、バランスよく食べる。 |
二枚貝(カキ、アサリ、ホタテ等)、エビ、カニ | 高(特に二枚貝)or中 | 重金属(カドミウム、鉛)、有害藻類毒素、マイクロプラスチック、PFAS | 二枚貝は加熱・浄化処理を徹底。旬の時期を選び、赤潮シーズンを避ける。エビやカニはよく洗浄し殻を適切に処理。 |
昆布(真昆布、利尻昆布など)、わかめ、ひじき、海苔 | 低〜中 | 重金属(ヒ素、鉛など)、PFAS(産地による)、無機ヒ素(ひじき) | ひじきは下茹でをして無機ヒ素を軽減。塩抜きや湯通しをして余分な成分を減らす。 |
イクラ(サケ卵)、タラコ、明太子、数の子(ニシン卵) | 中(または低〜中) | 脂溶性汚染物質(PCB、PFASなど)、重金属(水銀) | 親魚由来の汚染物質が卵巣に移行するため、産地を選び過剰摂取を控える。 |
3. リスクを軽減するポイント
- 食材の多様化・頻度の調整
- 一種類の魚介ばかり集中的に大量に食べると、特定の汚染物質が体内に蓄積しやすくなります。
- 大型魚だけでなく、小型魚や海藻、貝類などをバランスよく組み合わせることで、リスクを分散しましょう。
- 産地の確認・調理法の工夫
- 販売店やパッケージなどで産地表示がされている場合はチェックしましょう。自治体や漁協が公表する水質検査や汚染度の情報があると安心です。
- 脂溶性汚染物質は皮や脂に溜まりやすいため、皮をはぐ、焼いて脂を落とすなどの調理が有効。二枚貝は十分な加熱・浄化処理で有害藻類毒素を減らせます。
- 妊婦や小児は特に注意
- 水銀など神経毒性の高い汚染物質の影響を受けやすいのが、胎児や乳幼児です。
- 厚生労働省やWHOなどの「週に○回まで」といったガイドラインを参考に、大型魚の摂取量を調整しましょう。
4. 上手に付き合う
それぞれの食生活(例:ヴィーガン、ペスカタリアン、雑食など)には異なる価値観があり、すべての人にとって適切な選択は異なります。
自身の考え方やライフスタイルに合わせた食材を選ぶ際は、情報を正しく理解し、リスクとメリットをバランスよく考慮する姿勢が重要です。
5. 個人的な考え方
私は中年男性であり、海産物が好きな為、有害物質のリスクと精神的な満足度を秤にかけたとき、食べたい時には食べるという食習慣を選択しています。月に2,3回の頻度で美味しく食すことを優先しています。
一方で、オメガ3脂肪酸 などを摂取するなどの健康目的として摂取する事はありません。この場合は、メリットよりデメリットが優ると考える為です。
参考文献:
- GESAMP. (2015). Sources, fate and effects of microplastics in the marine environment.
- IPCC. (2019). Special Report on the Ocean and Cryosphere in a Changing Climate.
- Ritchie, H., & Roser, M. (2018). Plastic Pollution. Our World in Data.
- WHO. (2019). Microplastics in drinking water.
- U.S. EPA. (2022). PFAS Strategic Roadmap: EPA’s Commitments to Action 2021–2024.
- EFSA. (2020). Risk to human health related to the presence of perfluoroalkyl substances in food.
- 厚生労働省. (2023). 「魚介類の摂取と水銀に関する注意喚起」.
- 農林水産省. (2023). 「貝類・海藻類の安全性確保に関するQ&A」.